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「なんとなく」から脱却する仮説設定の3つのステップ

新規事業やプロダクト開発において、「なんとなく良さそう」「きっとニーズがあるはず」といった曖昧な根拠で進めてしまい、後から「誰も使ってくれない」「想定と全然違った」という結果に直面した経験はありませんか?

多くの失敗の根本原因は、検証可能な明確な仮説を立てずに開発を始めてしまうことにあります。今回は、曖昧な「なんとなく」から脱却し、科学的に検証可能な仮説を設定するための3つのステップをご紹介します。

なぜ「なんとなく」では失敗するのか?

「なんとなく良さそう」の問題点:

  • 検証不可能: 何を検証すべきかが不明確
  • 認識のズレ: チーム内で異なる前提を持っている
  • 学習できない: 失敗しても原因が特定できない
  • 改善できない: 何を改善すべきかわからない

例えば、「若い女性向けの健康管理アプリを作ろう」という案があったとします。一見明確に見えますが、実は以下のような曖昧さが潜んでいます:

  • 「若い女性」とは具体的に何歳?
  • 「健康管理」の中でも何に困っている?
  • なぜ既存のアプリではダメなのか?
  • どんな価値を提供するのか?

STEP 1: 「誰が・何を・なぜ」を明確化する

最初のステップは、仮説の主語と目的を明確にすることです。

フレームワーク: WHOWHYテンプレート

【WHO】具体的なターゲット
20代後半〜30代前半の働く女性で、
健康への意識は高いが時間がない人

【WHAT】提供する価値・解決する課題
毎日の体調変化を簡単に記録し、
生理周期と体調の関係性を可視化することで、
体調管理の精度を向上させる

【WHY】なぜその価値が必要なのか
忙しい日常の中で体調の変化に気づけず、
重要な仕事やプライベートの予定に
体調不良が重なってしまうことを防ぎたいから

明確化のチェックポイント

  • ターゲットが具体的か?: 「若い女性」→「20代後半〜30代前半の働く女性」
  • 課題が明確か?: 「健康管理」→「体調変化の予測と対策」
  • 価値が定量的か?: 「便利」→「体調管理の精度向上」

STEP 2: 前提条件を洗い出し、リスクレベルを評価する

仮説の背景にある前提条件を明確にし、それぞれのリスクを評価します。

前提条件の洗い出し

先ほどの健康管理アプリの例で前提条件を洗い出してみましょう:

顧客に関する前提:

  • ターゲット層は体調管理に課題を感じている
  • 毎日アプリに入力する習慣を作れる
  • 生理周期と体調の関係性に価値を感じる

市場に関する前提:

  • 既存アプリでは満足できていない
  • 月額課金モデルでも支払う意欲がある
  • 口コミで広がりやすい市場である

事業に関する前提:

  • 技術的に実現可能である
  • 3ヶ月で MVP を開発できる
  • 競合より優れた UX を提供できる

リスクレベル評価マトリクス

各前提条件を「影響度」と「不確実性」で評価します:

【高リスク(影響度:大、不確実性:大)】
・ターゲット層は体調管理に課題を感じている
・月額課金モデルでも支払う意欲がある

【中リスク(影響度:大、不確実性:小 or 影響度:小、不確実性:大)】
・既存アプリでは満足できていない
・毎日アプリに入力する習慣を作れる

【低リスク(影響度:小、不確実性:小)】
・技術的に実現可能である
・3ヶ月で MVP を開発できる

STEP 3: 検証可能な形に仮説を再構築する

最後に、洗い出した前提条件を検証可能な仮説として再構築します。

検証可能な仮説の条件

  1. 測定可能: 数値で結果を評価できる
  2. 期限明確: いつまでに検証するかが決まっている
  3. 行動指向: 検証方法が具体的に想像できる
  4. 学習設計: 結果から次のアクションが決められる

仮説の再構築例

曖昧な仮説(Before): 「20代後半〜30代前半の働く女性は、体調管理アプリにニーズがある」

検証可能な仮説(After): 「20代後半〜30代前半の働く女性100名にインタビューした結果、70%以上が『生理周期と体調の関係を把握したい』と回答し、そのうち50%以上が『月額500円なら支払ってもよい』と答える」

検証方法も同時に設計

仮説と合わせて検証方法も明確にします:

検証方法:

  • 期間: 4週間
  • 手法: オンラインインタビュー(1人30分)
  • 対象: 20代後半〜30代前半の働く女性100名
  • 成功基準: ニーズ70%以上、支払意欲50%以上
  • 判定: 基準を満たせば次フェーズ、満たさなければターゲット再検討

実践のコツ:チーム全体で仮説を共有する

仮説設定ワークショップの進め方

  1. 個人ワーク(10分): 各自で「誰が・何を・なぜ」を書き出す
  2. チーム議論(20分): 前提条件を洗い出し、リスク評価
  3. 仮説作成(15分): 検証可能な形に再構築
  4. 検証計画(15分): 具体的な検証方法を決定

継続的な仮説アップデート

仮説は一度作って終わりではありません:

  • 週次レビュー: 検証結果に基づく仮説の修正
  • 学習ログ: 何を学んだかを記録し、次の仮説に活用
  • チーム共有: 仮説の変更をチーム全体で共有

まとめ:「なんとなく」から「確信」へ

3つのステップを実践することで:

明確な方向性: チーム全体で同じ目標に向かえる

効率的な検証: 重要な仮説から優先的に検証

学習の蓄積: 失敗からも確実に学習し、次に活かせる

意思決定の精度向上: データに基づく判断ができる

「なんとなく良さそう」という直感は重要ですが、それを検証可能な仮説に変換することで、新規事業の成功確率は劇的に向上します。

次回は「影響度×不確実性マップで見える化する検証優先順位」について詳しく解説します。


Inovie Baseでは、このような仮説設定から検証まで、新規事業の成功に必要なプロセスを体系的にサポートしています。仮説検証プラットフォームにご興味がある方は、お気軽にお問い合わせください。