
この記事は、新規事業開発のアンチパターン(失敗しやすい典型的な行動)を、皮肉とユーモアを交えて紹介するものです。「新規事業を本当に進めたくない!」という方以外は、ここに書かれている行動を絶対に真似しないでください。もし、あなたのチームで似たような光景が見られたら、それはプロジェクトが停滞している危険なサインかもしれません。
「新規事業の担当に任命された。でも、正直なところ、今の仕事で手一杯…」
「リスクを取ってまで、新しいことなんてやりたくないなあ…」
「失敗したら自分の評価が下がるし、できれば波風立てずに現状維持したい…」
そんな、穏便に日々を過ごしたいと願う、そこのあなたへ。おめでとうございます。この記事は、そんなあなたのための「処方箋」です。
ここでは、周囲に「頑張っている感」を出しつつも、新規事業プロジェクトを安全かつ確実に停滞させるための、とっておきの行動を5つご紹介します。これを実践すれば、あなたは余計なリスクを負うことなく、平穏な日常を守り抜けるはずです。
さあ、メモの準備はよろしいですか?
プロジェクトを安全に停滞させる「おすすめ」行動5選
1. "完璧な"市場調査に全リソースを投入する
新規事業の第一歩は、なんと言っても情報収集です。ここで重要なのは「完璧さ」をとことん追求すること。
- 具体的な行動:
- 国内外のあらゆる競合サービスをリストアップし、機能比較表を延々と更新し続ける。
- 数千ページに及ぶ海外の市場調査レポートを全て購入し、「まずはこの熟読から始めましょう」と宣言する。
- 3ヶ月かけて、50ページを超える完璧なパワポ資料を作成。「この調査が終わるまで、一歩も前に進めません!」と力強く主張する。
- なぜ進まないのか?:
調査は無限に続けられます。完璧な情報など永遠に揃わないため、「まだ情報が足りない」を免罪符に、実際の行動(顧客に会う、試作品を作るなど)を未来永劫先延ばしにできます。上司からは「しっかり調査しているな」と評価され、一石二鳥です。
2. 会議のテーマを「リスク」と「懸念点」だけに絞る
アイデアが出たら、次にやるべきは徹底的なリスク分析です。楽観的な未来など語ってはいけません。我々のミッションは、あらゆる可能性のある失敗の芽を、一つ残らず事前に摘み取ることです。
- 具体的な行動:
- 会議のアジェンダを「本アイデアにおける潜在的リスクと法的・倫理的懸念点の洗い出し」と設定する。
- 誰かがポジティブな意見を言ったら、「でも、〇〇というリスクはどうするんですか?」とすかさず指摘し、議論を現実(という名のネガティブな世界)に引き戻す。
- 「失敗した場合の責任の所在を明確にしてからでないと…」と、組織論に話をすり替える。
- なぜ進まないのか?:
不確実な新規事業において、リスクは無限に見つかります。全ての懸念が払拭されることは絶対にないため、会議は「進めるための議論」ではなく「進めない理由を探す場」と化し、自然とプロジェクトは塩漬け状態になります。
3. 「関係者全員の合意」を絶対条件にする
ビジネスはチームプレー。一部の人間の独断で進めるなんて、もってのほかです。我々は、関連部署の隅から隅まで、全てのステークホルダーから100%の合意形成を得るまで、決して前に進んではなりません。
- 具体的な行動:
- 「まずは関係各所に根回しが必要なので」と言い、CCに20人以上入ったメールで「ご意見拝聴」を始める。
- 少しでも否定的な意見が出たら、「〇〇部さんが懸念を示しているので、一旦持ち帰ります」と会議を終了させる。
- 各部署から出た要望を全て盛り込もうとし、プロダクトのコンセプトを「全部乗せラーメン」のようにカオスな状態にして、誰も判断できないようにする。
- なぜ進まないのか?:
100人いれば100通りの意見があります。全員が100%納得する完璧な合意点など、この世に存在しません。合意形成という「正しいプロセス」を盾に、意思決定を巧みに回避し続けることができます。
4. 顧客ではなく「社内の有識者」にだけヒアリングする
顧客の声を聞くことは重要です。しかし、社外の人に話を聞きに行くのは手間も時間もかかります。幸い、私たちの社内には、その道のプロである「有識者」(と自認しているベテラン社員や上司)がたくさんいます。彼らの意見こそ、最も尊重すべき「神の声」です。
- 具体的な行動:
- 「まずは社内の〇〇部長に話を聞いてみないと」と、社内ヒアリング行脚を始める。
- 顧客インタビューの代わりに、社内の人だけを集めて「模擬ユーザーテスト」を実施する。
- 「ウチの顧客はこういうのを求めてないよ」という社内の重鎮の一言を金科玉条のごとく扱い、「やはり現場の感覚は違いますね!」と報告して、アイデアを撤回する。
- なぜ進まないのか?:
社内の人間は、あくまで「作り手側の論理」でしか物事を語れません。彼らの意見は、過去の成功体験や社内政治に縛られています。顧客という「未知の変数」を排除することで、議論は常に予測可能な範囲内に収まり、プロジェクトは安全な停滞を手に入れることができます。
5. 「完璧なMVP」の設計図作りに心血を注ぐ
MVP(Minimum Viable Product)とは、最小限の価値ある製品のこと。ここで大切なのは、「最小限」でありながら「完璧」であることです。バグがあったり、デザインがイマイチだったりする試作品を世に出して、会社の評判を落とすわけにはいきません。
- 具体的な行動:
- MVPの要件定義書に、将来実装するであろう全機能を盛り込み、壮大なシステム設計図を描き始める。
- 「ここのボタンの色は、当社のブランドイメージと合わない」など、細部のデザインに1ヶ月以上かける。
- 開発チームに「バグが0.1%でも存在する可能性のあるものはリリースできない」と伝える。
- なぜ進まないのか?:
「最小限」と「完璧」は、本来両立しません。この矛盾を追求することで、開発は永遠に終わりません。顧客からのフィードバックという、最も厄介で予測不能なイベントを回避しつつ、「プロダクト開発に真摯に取り組んでいる」というポーズを保ち続けることができる、最高に高度なテクニックです。
まとめ:停滞は、いつだって「正しいこと」の積み重ねから生まれる
いかがでしたでしょうか。
驚くべきことに、ここに挙げた行動は、一つひとつを見ると、どれも「ビジネスパーソンとして正しいこと」のように見えませんか?
「慎重な調査」「リスク管理」「合意形成」「専門家の意見」「品質へのこだわり」…
そうです。新規事業における停滞や失敗は、多くの場合、悪意ではなく「良かれと思ってやった正しいこと」の積み重ねによって引き起こされるのです。
もしあなたが、本気で新規事業を成功させたいと願うなら。
今日紹介した行動とは真逆のこと――「不完全なまま顧客に会う」「リスクを許容して小さく試す」「反対意見を恐れず前に進める」――そんな勇気が必要になるのかもしれません。
…まあ、もちろん、平穏な日常を守りたいなら、話は別ですが。