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「ユーザーはこう言っている」は信じるな。顧客インタビューで"本音"を引き出す5つの質問テクニック

「ユーザーはこう言っている」は信じるな。顧客インタビューで"本音"を引き出す5つの質問テクニック

新規事業開発の現場で、顧客インタビューは最も強力な武器の一つです。しかし、その使い方を間違えると、事業をあらぬ方向へ導く"諸刃の剣"にもなり得ます。

インタビューを終えたチームの会話で、こんなフレーズが飛び交うことはありませんか?

  • 「ユーザーは『この機能は絶対に必要だ』と言っていました!」
  • 「ほとんどの人が『月額1,000円なら払う』と答えてくれましたよ」
  • 「みんな『こんなアプリがあったらいいのに』って言ってました!」

一見、ポジティブで有望なフィードバックに聞こえます。しかし、これらの言葉を鵜呑みにするのは非常に危険です。なぜなら、これらは顧客の「意見」であり、事業の成功を約束する「事実」ではないからです。

人間は、相手をがっかりさせたくない、自分を良く見せたいという心理(社会的望ましさバイアス)が働き、つい肯定的な意見や未来の願望を語ってしまいます。しかし、実際に財布を開くかどうかは全く別の話。この「意見」と「事実」の深い溝に気づかないままプロダクトを作ってしまうことこそ、多くの事業が失敗する大きな要因なのです。

今回は、顧客の社交辞令や願望の霧を払い、その奥に隠された「本音(=事実)」を引き出すための、今日から使える5つの質問テクニックをご紹介します。

インタビューの大原則:「先生」ではなく「探偵」になれ

本題に入る前に、最も重要なマインドセットを確認しましょう。インタビューの目的は、あなたの素晴らしいアイデアをプレゼンし、同意を得ること(先生の役割)ではありません。目的は、顧客の過去の行動や背景にあるストーリーを丹念に掘り下げ、課題の証拠(ファクト)を見つけ出すこと(探偵の役割)です。

未来のこと(「もし〜だったら使いますか?」)は聞かない。聞くべきは、常に「過去の具体的な行動」です。この原則を胸に、5つのテクニックを見ていきましょう。

テクニック1:「魔法の質問」で課題の痛みを測る

まず、相手が抱えているとされる課題について、その「痛み」の深さを測るための質問です。

悪い質問 👎
「〇〇という課題はありませんか?」
(→誘導尋問。相手は「はい」と答えるしかありません)

良い質問 👍
「〇〇について、最後に困った(悩んだ)のはいつですか? その時のことを具体的に教えていただけますか?」

この質問は「魔法の質問」と呼ばれています。もし相手がすぐに、かつ具体的に「昨日の夕方、〇〇という状況で…」と語り始めれば、それは彼にとって日常的に発生する、痛みの深い課題である可能性が高いです。

逆に、「うーん、そうですねえ…」としばらく考え込んでしまうようであれば、その課題はそれほど頻繁には発生せず、痛みも浅い「あれば嬉しい(ビタミン)」レベルの課題かもしれません。

テクニック2:「タイムマシン・クエスチョン」で背景を探る

課題が存在することがわかったら、次はその課題が生まれた背景や、顧客がそれに対してどんな行動を取ってきたかを探ります。

悪い質問 👎
「なぜ、その課題を解決したいのですか?」
(→「なぜ」で聞くと、人は正当化しようと後付けの理由を語りがちです)

良い質問 👍
「その課題を解決するために、これまでに何か試したことはありますか?」
「(もし何か試していたら)その方法は、どうやって見つけたのですか?」

人は、本当に解決したい課題があれば、何かしらの行動を起こしているはずです。それがGoogle検索であれ、高価なツールへの投資であれ、あるいはExcelやスプレッドシートを使った涙ぐましい手作業(ハック)であれ、過去の行動こそが本気度の証拠です。何も行動していないのであれば、それは「口では困っていると言うが、実はそれほどでもない」という本音の現れかもしれません。

テクニック3:「現金な質問」でお金の流れを追う

課題解決のために行動したことがあるとわかったら、次は「お金」の流れを追跡します。財布の痛みは、嘘をつきません。

悪い質問 👎
「もしこのサービスが月額1,000円だったら、払いますか?」
(→未来の仮定の話。ほとんどの人は「はい」と答えますが、信頼性はゼロです)

良い質問 👍
「(過去に試した方法に対して)その時、お金はかかりましたか? もしよろしければ、いくらくらいでしたか?」

過去に実際にお金を払ったという事実は、その課題が「お金を払ってでも解決したい」レベルであることを示す、極めて強力な証拠です。その金額が、あなたのプロダクトの価格設定を考える上での重要なアンカーとなります。

テクニック4:「共感の深掘り」で感情を引き出す

インタビューは尋問ではありません。相手のストーリーに深く共感し、感情的な側面を引き出すことで、さらに深いインサイトが得られます。

普通の質問😐
「それで、どうなりましたか?」

良い質問 👍
「うわ、それは大変でしたね…。その時、どんなお気持ちでしたか?」
「(成功体験について)そのやり方を見つけた時は、正直どう思いましたか?」

ロジックだけでなく、顧客の「イライラ」「不安」「喜び」「達成感」といった感情に寄り添うことで、課題の質的な重みを理解できます。特にネガティブな感情が強く語られる課題は、大きなビジネスチャンスを秘めています。

テクニック5:「沈黙の力」を信じる

これは質問「しない」テクニックです。相手が話し終えた後、すぐに次の質問を投げかけるのではなく、**意識的に3〜5秒の「間」**を作ってみましょう。

多くの場合、話し手はこの沈黙を埋めようとして、それまで話していなかった本音や、より深い考えを自発的に語り始めてくれます。

「…で、まあ、そんな感じですね」
(…シーン…)
「あ、あと、実はもう一つあって…」

焦って話の主導権を握ろうとせず、相手が自分の内面を掘り下げるための「余白」を提供してあげましょう。沈黙は金なり、です。

まとめ:あなたの仕事は「聞くこと」ではなく「学ぶこと」

顧客インタビューは、あなたの仮説が正しいことを確認する場ではありません。それは、あなたの知らない現実を学び、仮説を壊し、より鋭いものへと作り変えていくためのプロセスです。

「ユーザーはこう言っている」という言葉の表面だけをなぞるのをやめ、その裏側にある「行動」「お金の流れ」「感情」という事実に目を向けましょう。

今回ご紹介した5つのテクニックを使えば、あなたは単なるインタビュアーから、顧客の心の奥深くまで探求する、優れた「探偵」へと変わることができるはずです。

さあ、次のインタビューで、本当の宝(インサイト)を見つけに行きましょう。