
多くの企業が持続的な成長を目指し、社内での新規事業開発に力を入れています。しかし、その道のりは決して平坦ではなく、多くの有望なプロジェクトが途中で頓挫してしまうのが現実です。
なぜ、社内新規事業は失敗しやすいのでしょうか?
それは、既存事業の成功体験が、新しい挑戦の足かせとなってしまう「5つの壁」が存在するからです。本記事では、社内新規事業が直面しがちなこれらの壁と、それを乗り越えるための具体的な突破法を解説します。
よくある5つの壁
壁1:既存事業とのカニバリゼーション懸念
新しい事業が、自社の既存事業のシェアを奪ってしまう(カニバリゼーション)ことを恐れるあまり、大胆なアイデアが潰されてしまうケースです。特に、既存事業が好調な企業ほど、この傾向は強くなります。
<突破する方法>
- 事業ポートフォリオで考える:
新規事業を単体で見るのではなく、「未来の収益の柱」として、会社全体のポートフォリオの一部として捉える視点が重要です。目先のカニバリゼーションを恐れるのではなく、市場の変化に対応できずに全ての事業が共倒れになるリスクを考えましょう。 - 「もし競合がこの事業を始めたら?」と問う:
自社でやらなければ、いずれ競合他社が同じような事業を始めるかもしれません。その場合、シェアを奪われることに変わりはありません。未来の市場で勝ち残るために、自らを変革する覚悟が必要です。
壁2:短期的な収益へのプレッシャー
新規事業は、すぐに大きな利益を生むとは限りません。しかし、既存事業と同じ尺度で短期的なROI(投資収益率)を求められ、十分な検証や改善の期間を得られずに撤退を余儀なくされることがあります。
<突破する方法>
- 探索フェーズ専用のKPIを設定する:
リーンスタートアップの考え方を取り入れ、売上や利益ではなく、「学習の量と質」を測る指標(例:検証した仮説の数、顧客インタビューの件数)をKPIに設定します。これにより、事業の進捗を正しく評価できます。 - 少額・迅速な予算執行を繰り返す:
最初から大きな予算を求めるのではなく、仮説検証に必要な最低限の予算を獲得し、小さな成功を積み重ねていくことで、経営層の信頼を得やすくなります。
壁3:失敗を許容しない文化
減点方式の人事評価や、「失敗は悪」とする企業文化は、新しい挑戦への大きな足かせとなります。担当者がリスクを取ることを恐れ、当たり障りのない、革新性の低いアイデアしか生まれなくなってしまいます。
<突破する方法>
- 「称賛されるべき失敗」を定義する:
「何も学ばなかった失敗」と「学びのある、価値ある失敗」を明確に区別し、後者を称賛する文化を醸成します。撤退したプロジェクトから得られた知見を全社で共有し、次の挑戦に活かす仕組みを作りましょう。 - 経営層が自ら挑戦し、失敗する姿を見せる:
トップが率先して新しいことに挑戦し、失敗談を語ることで、「失敗してもいいんだ」というメッセージが社内に浸透します。
壁4:縦割り組織の弊害
新規事業には、部署の垣根を越えた連携が不可欠です。しかし、セクショナリズムが強い組織では、必要な情報やリソースへのアクセスが困難になり、プロジェクトのスピードが著しく低下します。
<突破する方法>
- 経営層直轄の独立チームを組成する:
既存の組織構造から切り離された、独立したチームを作ることで、意思決定のスピードを上げ、部門間の調整にかかるコストを削減できます。 - 「出島」を作る:
物理的に別のオフィスを構えるなど、既存事業から意図的に距離を置くことで、独自のルールや文化を育みやすくなります。
壁5:評価制度のミスマッチ
既存事業の評価制度は、売上や利益への貢献度が基準になることがほとんどです。これを新規事業の担当者にそのまま適用すると、不確実性の高いミッションに挑むインセンティブが働かず、モチベーションの低下につながります。
<突破する方法>
- 挑戦そのものを評価する:
短期的な業績ではなく、仮説検証のプロセスや、困難な課題に挑戦した行動そのものを評価する制度を導入します。 - ストックオプションなど、未来の成功へのインセンティブ設計:
事業が成功した際に、担当者にも大きなリターンがあるような報酬体系(ストックオプションなど)を用意することも有効です。
まとめ:新規事業は「未来への投資」
社内新規事業を成功させるには、既存事業の「常識」から一度離れ、新しい挑戦を育むための特別な「土壌」を用意することが不可欠です。
今回ご紹介した5つの壁は、多くの企業が通る道です。自社の状況と照らし合わせ、適切な突破法を試すことで、失敗の確率は着実に下げられるはずです。
新規事業は、不確実な未来に対する最も有効な投資です。失敗を恐れずに挑戦を続ける企業だけが、持続的な成長を手にすることができるのです。