
AIエージェントは、単に「質問に答えるチャット」から、業務の文脈を覚え、手順を蓄積し、継続的に仕事の質を上げていく存在へ移りつつあります。
Xで公開されたAkshay氏のHermes Agent解説記事では、Nous Researchが開発するオープンソースAIエージェント「Hermes Agent」が、なぜ“使うほど賢くなる”エージェントとして注目されているのかが詳しく紹介されていました。
この記事では、その内容をinovieの視点で整理しながら、事業開発・営業・マーケティング・制作業務にどう活かせるのかを解説します。
従来のAIエージェントが抱えていた課題
多くのAIエージェントは、1回の会話や1つのタスクの中では便利に動きます。しかし、セッションが終わると文脈がリセットされてしまうことが少なくありません。
たとえば、前回伝えたコーディングルール、会社独自の表現方針、LP制作時の注意点、よく使うCTA、過去に修正した失敗パターンなどが、次の会話ではまた最初から説明し直しになる。
これは、AIを本格的に業務へ組み込もうとしたときに大きな壁になります。人間のメンバーであれば、経験を通じて組織の文脈を理解し、次第に「この会社ならこうする」という判断ができるようになります。AIにも同じような継続性が必要です。
Hermes Agentの中心思想:使うほど改善されるAI
Hermes Agentの特徴は、単に高性能なモデルを呼び出すことではありません。重要なのは、AIエージェントが経験を蓄積し、次回以降の仕事に活かすための仕組みを持っている点です。
記事では、Hermes Agentの学習ループとして、主に次の要素が紹介されています。
- セッションをまたいで情報を保持するメモリ
- 成功した業務手順を再利用可能にするスキル
- 増えすぎたスキルを整理するCurator
- 実行履歴を使ってスキルを検証・改善するGEPA
つまりHermes Agentは、毎回ゼロから考えるAIではなく、業務の履歴を“資産化”していくAIエージェントだと言えます。
SOUL.md:AIエージェントの人格を決める
Hermes Agentには、SOUL.mdというファイルがあります。これはエージェントの人格、口調、コミュニケーションスタイル、守るべき方針を定義するレイヤーです。
メモリが「何を知っているか」、スキルが「どう実行するか」だとすると、SOUL.mdは「そのエージェントが誰なのか」を決めるものです。
これは業務利用ではとても重要です。たとえば、同じAIでも、経営者向けに簡潔に提案するエージェント、デザイナーとしてビジュアルを重視するエージェント、開発者として厳密に検証するエージェントでは、振る舞い方が変わるべきです。
Hermes Agentでは、この人格設定を土台にして、メモリやスキルが解釈されます。そのため、単なるプロンプトの寄せ集めではなく、継続的に同じ方針で働く“役割を持ったAI”を作りやすくなります。
3層メモリ:何を常に覚え、何を検索するか
Hermes Agentのメモリは、1つの大きな記憶領域ではなく、用途に応じた3層構造として説明されています。

1. 常に読み込まれる小さなメモリ
ユーザーの好みや重要なプロジェクトルールなど、毎回参照したい情報は小さなMarkdownファイルとして保持されます。容量は限られているため、重要な情報だけを圧縮して残す設計です。
2. 過去セッションの検索
すべての会話履歴はSQLiteに保存され、必要に応じて検索できます。常にプロンプトに入るわけではありませんが、「前にどう対応したか」を思い出すための履歴として機能します。
3. 外部メモリプロバイダー
さらに外部メモリと連携することで、より広い文脈を取得できます。業務システムやナレッジベースと接続すれば、社内情報を踏まえたエージェント運用にもつながります。
この設計のポイントは、すべてを常に抱え込むのではなく、「常に必要な情報」と「必要なときに検索する情報」を分けていることです。
Self-Evolving Skills:成功手順を業務マニュアル化する
Hermes Agentのもう一つの重要な特徴が、スキルです。スキルは、エージェントにとっての業務マニュアルのようなものです。

たとえば、次のような手順をスキルとして保存できます。
- microCMSで記事を作成し、画像をアップロードして公開する手順
- LPの構成案を作るときのチェックリスト
- X投稿を作るときの文体・構成ルール
- GitHubでPRを作成し、CIを確認する流れ
- 顧客インタビューから広告訴求へ落とし込む方法
重要なのは、AIが作業の中で発見した成功パターンを、次回以降のためにスキルとして保存できることです。
一度うまくいったやり方を毎回再発見するのではなく、組織の標準手順として蓄積していく。これは、AIを単発の便利ツールではなく、継続的な業務基盤として使ううえで大きな差になります。
Curator:増えすぎたスキルを整理する仕組み
スキルを自動で作れるようになると、今度はスキルが増えすぎる問題が起きます。似たような手順書が乱立したり、古いルールが残り続けたりすると、エージェントの判断がぶれます。
そこでHermes AgentにはCuratorという仕組みがあります。これは、使われていないスキルや重複したスキルを整理し、必要に応じて統合・アーカイブするメンテナンス役です。
AIエージェントを長期運用するうえでは、「覚えること」だけでなく「整理すること」も同じくらい重要です。人間の組織でも、古いマニュアルや重複した資料が増えると現場が混乱します。AIのスキル管理にも、同じ運用思想が必要になります。
GEPA:自己評価ではなく実行履歴で改善する
記事では、GEPAというオフライン最適化の仕組みも紹介されています。GEPAは、エージェントの実行履歴をもとに、スキルやプロンプトを改善していく仕組みです。
ここで重要なのは、AI自身に「うまくできましたか?」と聞くだけでは不十分だという点です。AIは自分の成果を過大評価しがちです。実際には失敗しているのに、もっともらしく「完了しました」と言ってしまうことがあります。
GEPAは、実行トレースを読み、どこで失敗したのか、どの手順が効いたのかを分析し、改善版のスキル候補を作ります。そして評価基準に照らして検証し、品質の高いものだけを採用します。
これは、AIエージェントの運用を“気合いと勘”ではなく、実行ログにもとづいて改善する考え方です。
複数エージェント運用:役割ごとにAIを分ける
Hermes Agentでは、profile機能を使って複数の独立したエージェントを運用できます。記事では、Designer、Programmer、Researcherのような役割別エージェントの例が紹介されています。

事業現場に置き換えると、これはかなり実践的です。
- リサーチ担当AI:市場調査、競合調査、X上の反応整理
- 制作担当AI:LP構成、広告画像、記事アイキャッチ作成
- 開発担当AI:サイト修正、CMS連携、GitHub運用
- 営業支援AI:リード調査、フォーム営業文面、商談準備
1つの万能AIにすべて任せるよりも、役割ごとに人格・記憶・スキルを分けた方が、業務に馴染みやすくなります。
事業会社にとっての本質:AIを“業務OS”に近づける
Hermes Agentの記事が示している本質は、AIエージェントが単なるチャットUIから、業務を動かすOSのような存在へ近づいているということです。
重要なのは、AIに何でも自由にやらせることではありません。むしろ、会社ごとの判断基準、制作ルール、運用フロー、検証方法をAIに持たせ、再現性のある形で動かすことです。
特に新規事業では、仮説検証、LP改善、広告制作、営業活動、顧客対応、プロダクト改善が同時並行で進みます。ここにAIエージェントを導入するなら、単発の生成能力よりも、文脈を引き継ぎ、手順を改善し、継続的に動けることが重要になります。
inovieとしての見方
inovieでは、AIを「便利なツール」としてだけでなく、事業開発の実行力を高める仕組みとして捉えています。
Hermes Agentのような仕組みは、次のような業務に特に相性があります。
- 新規事業アイデアの整理と検証設計
- LP・広告・記事・FAQなどの制作運用
- 顧客インサイトの収集と仮説化
- 営業リスト作成やフォーム営業の自動化
- プロジェクトごとのナレッジ蓄積
AIエージェントに業務を任せる時代に必要なのは、単に「AIに詳しいこと」ではありません。自社の業務をどう構造化し、どの手順を標準化し、どこを人間が判断するのかを設計する力です。
まとめ
Hermes Agentの解説記事は、AIエージェントの次の方向性をよく示しています。
- AIはセッションごとにリセットされる存在から、記憶を持つ存在へ変わる
- 成功した手順はスキルとして蓄積され、再利用される
- 古いスキルは整理され、実行履歴をもとに改善される
- 役割ごとに複数のAIエージェントを運用できる
これからのAI活用では、単発のプロンプト力だけでなく、AIが継続的に成果を出せるようにする運用設計が重要になります。
AIエージェントを“業務に詳しい相棒”へ育てていく。そのための設計思想として、Hermes Agentは非常に参考になる事例です。