仮説検証

影響度×不確実性マップで見える化する検証優先順位

影響度×不確実性マップで見える化する検証優先順位

前回の記事「『なんとなく』から脱却する仮説設定の3つのステップ」では、曖昧なアイデアを検証可能な仮説に落とし込む方法をご紹介しました。しかし、洗い出した仮説を前に、「結局、どれから手をつければいいの?」と迷ってしまうことはないでしょうか。

時間、人材、資金といったリソースは有限です。すべての仮説を一度に検証することは現実的ではありません。間違った順番で検証を進めてしまうと、手遅れになってから致命的な問題に気づく…という事態に陥りかねません。

そこで今回は、数ある仮説の中から「今、何を検証すべきか」を明確にし、チームのリソースを最適化するための強力なツール、「影響度×不確実性マップ」について、具体的な作成ステップとともに詳しく解説します。

前回の記事はこちら

なぜ「検証の優先順位」が重要なのか?

新規事業開発は、霧の中を進む航海のようなものです。どこに座礁のリスク(=事業を失敗させる要因)が潜んでいるかわかりません。優先順位をつけずに手当たり次第に進むのは、羅針盤なしで航海に出るのと同じです。

優先順位付けがもたらすメリット:

  • リソースの集中: 最も重要な課題解決にリソースを集中できる。
  • 手戻りの削減: 事業の根幹を揺るがす問題を早期に発見し、開発が進んでからの大きな手戻りを防ぐ。
  • 意思決定の迅速化: 「次に何をすべきか」が明確になり、チームの意思決定スピードが向上する。
  • 心理的安全性: どのリスクから対処すべきか全員が合意しているため、安心して開発に取り組める。

STEP 1: 「影響度×不確実性マップ」を理解する

影響度×不確実性マップは、縦軸に「影響度」、横軸に「不確実性」をとり、洗い出した仮説(前提条件)を4つの象限にプロットする思考フレームワークです。

  • 縦軸:影響度(Impact)
    • その前提がもし間違っていた場合、事業の成否にどれだけ大きなインパクトを与えるか。
  • 横軸:不確実性(Uncertainty)
    • その前提が正しいという確信がどれだけないか。客観的なデータや事実が不足している度合い。

この2軸でマッピングすることで、仮説は以下の4つのエリアに分類されます。

  1. 【最優先検証】(影響度:大、不確実性:大)
    • 事業の成否を分ける、最も致命的なリスクが潜むエリア。外れた場合の影響が甚大で、かつ正しいかどうかも全くわからないため、真っ先に検証すべき仮説です。
  2. 【低コストで検証】(影響度:小、不確実性:大)
    • 外れても致命傷にはならないが、正しいかどうかわからない仮説。低コストかつ短時間でサッと検証し、不確実性を減らしておきたいエリアです。
  3. 【継続的に監視】(影響度:大、不確実性:小)
    • ある程度正しいという確信はあるものの、万が一外れた場合の影響が大きい仮説。市場の変化などで前提が崩れないか、定期的にウォッチすべきエリアです。
  4. 【後回し】(影響度:小、不確実性:小)
    • 外れても影響は小さく、かつ確度も高い仮説。現時点では特にアクションを起こす必要がないエリアです。

STEP 2: マップを作成する3つの手順

では、実際にマップを作成してみましょう。前回に引き続き、「20代後半〜30代前半の働く女性向け健康管理アプリ」の例を使います。

手順1:前提条件のリストアップ(おさらい)
まずは、事業の成功を支える前提条件をすべて洗い出します。

  • 顧客の前提:
    • A: ターゲット層は体調管理に課題を感じている
    • B: 毎日アプリに入力する習慣を作れる
    • C: 生理周期と体調の関係性に価値を感じる
  • 市場の前提:
    • D: 既存アプリでは満足できていない
    • E: 月額課金モデルでも支払う意欲がある
  • 事業の前提:
    • F: 技術的に実現可能である
    • G: 3ヶ月で MVP を開発できる

手順2:影響度と不確実性の評価
次に、各前提をチームで議論しながら評価します。

  • 影響度の評価:「もしこれが間違っていたら、事業は終わるか?」
    • (A)課題を感じている → 間違っていたら誰も使わない。影響度:大
    • (E)支払う意欲がある → 間違っていたらマネタイズできない。影響度:大
    • (G)3ヶ月で開発できる → 4ヶ月かかっても致命的ではない。影響度:小
  • 不確実性の評価:「これが正しいという客観的な証拠はあるか?」
    • (A)課題を感じている → まだ直接聞いていないので不明。不確実性:大
    • (E)支払う意欲がある → 全くの未知数。不確実性:大
    • (F)技術的に実現可能 → 社内エンジニアに確認済み。不確実性:小

手順3:マップへのプロットと優先順位の決定
評価結果をもとに、前提をマップにプロットします。

  • 【最優先検証】(右上)
    • A: ターゲット層は体調管理に課題を感じている
    • E: 月額課金モデルでも支払う意欲がある
    • C: 生理周期と体調の関係性に価値を感じる
  • 【低コストで検証】(右下)
    • B: 毎日アプリに入力する習慣を作れる
  • 【継続的に監視】(左上)
    • D: 既存アプリでは満足できていない(※競合調査である程度確信はあるが、影響は大きいため監視)
  • 【後回し】(左下)
    • F: 技術的に実現可能である
    • G: 3ヶ月で MVP を開発できる

このマップにより、「まずはターゲットの課題の深さ、お金を払うほどの価値を感じるかをユーザーインタビューで検証しよう」という、明確で具体的な次のアクションが導き出されました。

実践のコツ:マップを「生きた羅針盤」にする

このマップは一度作って終わりではありません。事業の羅針盤として機能させるために、以下の点を意識しましょう。

  • チームで作成する:
    評価の基準は人によって異なります。「なぜ影響度が大きいと思う?」といった対話を通じて、チームの認識を揃えるプロセスが重要です。
  • 議論を記録する:
    なぜその位置にプロットしたのか、理由や背景を記録しておくと、後から見返したときに役立ちます。
  • 定期的に更新する:
    検証が進むと、仮説の不確実性は低下します(右から左へ移動します)。週次レビューなどでマップを更新し、常に最新の状況を反映させましょう。

まとめ:「当てずっぽうの検証」から「戦略的な検証」へ

影響度×不確実性マップを活用することで、あなたは「当てずっぽうの検証」から脱却し、「戦略的な検証」へとシフトできます。

最も重要なリスクから潰せる
無駄な開発コストや工数を削減できる
チームの目線が合い、次に何をすべきかが一目瞭然になる
ステークホルダーへの説明責任を果たしやすくなる

限られたリソースをどこに投下すべきか。このマップは、その問いに対する明確な答えを示してくれます。霧の中の航海を、確かな羅針盤を手に進んでいきましょう。

最優先で検証すべき仮説が見えたら、次はいよいよMVP(Minimum Viable Product)の設計です。次回は『最速で学びを得るためのMVP設計法』について解説します。


Inovie Baseでは、こうした仮説の優先順位付けから検証計画の立案、学習の蓄積まで、新規事業開発のプロセスを一気通貫でサポートします。ご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。
https://inovie.jp/

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