生成AIの活用事例を業務別に紹介、企業・自治体の発表に見る共通点

生成AIの活用事例は、文書の作成や要約から、社内の問い合わせ対応、顧客対応、営業の提案、システム開発、経理や人事の業務まで広がっています。この記事では、企業と自治体が公式に発表した取り組みを例として生成AIの活用事例を業務別に整理し、事例に共通する進め方と、自社で始めるときの手順を解説します。取り上げる取り組みと数値は、各社・各機関の発表資料に書かれている範囲に限り、発表元と時期を明記しています。
公表データに見る生成AIの使われ方
企業では業務効率化が中心
IPA(情報処理推進機構)が2026年7月に公表したDX動向調査のポイント(国内1,799社が回答)では、AIの導入は大企業を中心に広がり、多くの企業で効果が実感されている一方、期待どおりや期待以上の効果が出ている割合は限られるとまとめています。AIの利用用途や効果の中身も、業務の効率化・迅速化が中心です。
自治体では文案作成と要約が上位
総務省が2026年4月に公表した令和7年度の調査(2025年10月31日時点、全1,788団体が回答)によると、生成AIを導入済みの団体は都道府県と指定都市で100%、その他の市区町村で45.6%でした。活用している業務は、回答の多い順に「あいさつ文案の作成」「議事録の要約」「議会の想定問答の文案の作成」「メール文案の作成」「企画書案の作成」です。
同じ調査では、生成AIをカスタマイズしている団体のうち、モデルはそのままで業務知識を外部の情報源として参照させる方法(RAG)を使う団体が最も多く、参照させる業務知識はマニュアル、議会会議録、法令、FAQ集、計画の順でした。導入の課題としては「AI生成物の正確性への懸念がある」「取り組むための人材がいない又は不足している」「要機密情報流出の懸念がある」が多く挙がっています。
文書の下書きや要約から使い始め、次に社内の資料を参照させる使い方へ広げる、という流れが調査結果から読み取れます。社内の資料を参照させる仕組みは、RAGとは?で詳しく解説しています。
業務別に見る生成AIの活用事例
ここからは、企業や自治体が公式に発表した取り組みを、業務ごとに紹介します。効果の数値は発表に書かれたとおりに引用し、実績か、試算や見込みかも分けて記します。
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企業と自治体が公式に発表した生成AIの活用事例を3つの業務群に整理した図。社内の文書と情報では、パナソニック コネクトの議事録や提案書の作成支援、住友商事のメール要約や会議のまとめ、デジタル庁のマニュアルを参照するヘルプAI、LINEヤフーの社内規則の検索がある。顧客対応と営業では、神戸市の税の電話問い合わせをFAQにつなぐボイスボット、三菱UFJ銀行の用件の聞き取りとオペレーターへの振り分け、三井住友銀行の提案書ドラフトの作成、長崎県の観光ルートの提案がある。開発とバックオフィスでは、楽天グループのAIコーディングツールの活用、東急での検証による請求書からの伝票作成とチェック、LINEヤフーの人事総務ツール、千葉県ほかの福祉相談の記録の要約がある。
文書作成・要約
パナソニック コネクトは2026年7月29日の発表で、自社向けのAIアシスタント「ConnectAI」の2025年度の活用実績を公表しました。同社は2023年2月から国内の全社員約11,800人に活用を広げており、発表によると、2025年度のAI活用による削減時間は78.8万時間で、年間の総労働時間の3.4%に当たります。利用回数は361万回、1回あたりの削減時間は33分でした。同社は、ファイルを使った議事録作成、コード生成、ログ分析、提案書作成支援、設計書・仕様書作成など、個人の業務に合わせた使い方が広がったことを主な要因に挙げています。
住友商事は、2025年11月に公式サイトで公開した記事で、2024年4月に海外グループ会社を含む約9,000人が「Microsoft 365 Copilot」(現在の名称は Microsoft Copilot)の利用を始めたと紹介しています。記事によると、2024年12月時点の業務時間の削減効果は1か月あたり約1万時間、コスト削減効果は年間約12億円でした。この数値は、アンケートから求めた1回あたりの平均削減時間に利用回数と人件費を掛けて算出したと説明しています。使い方は、メールの要約や会議のまとめ、考えを整理するための相談相手としての利用から、投資先分析や財務分析まで広がっているといいます。
会議の記録づくりに絞った使い方は、議事録AIの仕組みと選び方で解説しています。
社内問い合わせ・ナレッジ検索
デジタル庁は2025年8月に公表した資料で、2025年5月に職員向けの生成AI利用環境「源内」の提供を始めたと報告しています。資料によると、5月から7月までの3か月間で職員約1,200人のうち約950人が利用し、利用回数はのべ6万5,000回以上でした。チャットや文章生成、要約などの汎用のアプリに加え、旅費等内部管理業務共通システムや電子決裁システムのマニュアル・FAQを参照して答えるヘルプAI、国会会議録から参考になる政府答弁を探す国会答弁検索AIなど、行政の実務に合わせたアプリを職員が内製しています。
同じ資料では、3か月で100回以上使った職員が150人以上いた一方、5回未満の利用にとどまった職員が170人に達し、課長級職員の半数は利用実績がなかったことも公表されています。デジタル庁は2026年3月、全府省庁の約18万人の職員を対象とする大規模実証を、2026年5月から2027年3月まで行うと発表しました。
LINEヤフーは2025年7月の発表で、経費精算などの社内規則を調べるときは独自の業務効率化ツール「SeekAI」を使う、という社内ルールを示しました。社内の文書を探しやすくする方法は、ナレッジ共有が進まない理由と仕組みの作り方でも整理しています。
顧客・住民からの問い合わせ対応
総務省が2025年12月に公表した「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>(第4版)」は、神戸市が税関連の電話問い合わせで行った実証を紹介しています。ボイスボットが一次対応し、生成AIは問い合わせの意図を読み取って事前に登録したFAQと結びつける部分だけに使います。回答はFAQの中から選ぶため、生成AIが回答文を作ることはなく、FAQで答えられない場合は職員に電話をつなぎます。ガイドブックによると、住民税に関する一般的・定型的な問い合わせの50%以上(電話の途中で離脱したものは除く)に、FAQの内容で自動回答できました。
三菱UFJ銀行は2025年12月の発表で、コールセンターに電話した顧客の用件を生成AIが聞き取り、発話の内容を解析して適切なオペレーターへつなぐ受付機能を、フリーダイヤルの一部で導入すると公表しました。ソフトバンクは2025年11月の発表で、ワイモバイルのカスタマーサポートにおける暗証番号の照会業務を、音声に対応した生成AIで自動化したと公表しています(2025年8月下旬に導入)。どちらも、対象を一部の窓口や照会業務に限って始めています。
営業・企画
三井住友フィナンシャルグループと三井住友銀行は2026年4月30日、Sakana AIと開発した「提案書自動生成アプリケーション」を三井住友銀行で導入し始めると発表しました。発表によると、AIが対象企業の財務・非財務情報を分析して提案のドラフトを作り、情報収集・分析、仮説構築・ストーリー策定、品質評価・ファクトチェックなど役割の異なる複数のAIエージェントが連携します。資料作成の負担を減らし、行員が多角的な分析や課題の解決策づくりに集中できるようにすることを狙いとしています。
先の三菱UFJ銀行の発表では、営業店やコールセンターに寄せられるお客さまの声の分析に生成AIを使い、商品やサービスの改善につなげる取り組みも始めるとしています。総務省のガイドブックでは、長崎県が県観光連盟のポータルサイトで、利用者の希望に合わせて観光スポットや飲食店、宿泊施設を組み合わせたルートを生成AIに提案させる取り組みも紹介されています。ガイドブックによると、実証の開始から半年で延べ6,900人以上が利用し、AIが作成したプランは12,000件以上でした。
システム開発
楽天グループの公式ブログ(2025年6月)によると、同社はAnthropicのAIコーディングツール「Claude Code」を開発に取り入れ、新機能の市場投入までの平均期間が24営業日から5日に短縮(79%の短縮)したとしています。大規模なオープンソースのライブラリーに機能を実装する作業を、Claude Codeが7時間続けて自律的に進めた例も紹介されています。この内容は2025年6月時点の発表であり、ツールの機能や提供形態はその後も更新されています。
先に紹介したパナソニック コネクトの発表でも、コード生成やログ分析が削減時間を押し上げた使い方に挙がっています。
バックオフィス(経理・人事・記録作成)
NTTデータなど3社は2026年5月、東急の経理業務で行った検証の結果を発表しました。生成AIが請求書を読み取り、過去の類似伝票を参照して伝票を作成するほか、インボイス制度への対応や勘定科目の妥当性を自動で判定します。利用者はチャット形式で起票内容を確認・修正します。発表によると、伝票起票業務で最大38%の作業削減効果を試算し、東急では年間約5,000時間の作業削減を目指すとしています。この数値は実績ではなく、年間の処理件数と作業時間をもとにした試算です。請求書の読み取りの方式は、AI OCRとは?で解説しています。
LINEヤフーは2026年2月の発表で、人事総務領域で10件のAI活用ツールを2026年春までに順次運用すると公表しました。採用に関するアンケートの自由記述の分類、面接官のトレーニング、面接日程の調整、社内公募の応募書類づくりの支援などが含まれ、部門全体で月間約1,600時間以上の工数削減を見込んでいます。発表では、出力は参考情報の一つとして扱い、最終的な判断・対応は必ず人が行うと明記しています。
総務省のガイドブックでは、千葉県と県内8市が共同で調達した福祉相談業務システムも紹介されています。相談時の音声を文字にし、生成AIで相談内容を要約する機能を持ち、人名・地名を自動でマスキングしたうえで、相談員が適切かを確かめてから生成AIに入力します。ガイドブックによると、相談支援員50名へのアンケートでは、相談1件あたりの記録作成にかかる時間が平均22.1%減少しました。
生成AIの活用事例に共通する4つの点
業務や組織の規模は違っても、紹介した取り組みには共通する進め方があります。
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企業と自治体の生成AIの活用事例に共通する4つの点と、自社で決めることの対応表。対象業務では、どの取り組みも最初の範囲を具体的な業務に絞っており、自社では最初に使う業務を1つ決める。人の確認では、最終判断や答えられない問い合わせを人が引き受けており、自社では誰がどこまで確認するかを決める。ルールでは、研修や試験、扱える情報の範囲、学習に使われない環境を先に決めており、自社では入力してよい情報と使う環境を決める。評価では、削減時間や利用回数を測り課題も記録しており、自社では導入前後の作業時間を測る。
対象業務を絞って始めている
LINEヤフーは、従業員の業務の3割を占める「調査・検索」「資料作成」「会議」から着手すると発表しています。神戸市は税関連の電話問い合わせ、三菱UFJ銀行はフリーダイヤルの一部、東急の検証は請求書からの伝票起票というように、どの取り組みも最初の範囲を具体的な業務に絞っています。
人が確認する場所を決めている
LINEヤフーの人事総務領域では最終的な判断を人が行い、神戸市のボイスボットはFAQで答えられない問い合わせを職員につなぎます。東急の検証では利用者が対話しながら起票内容を確認・修正し、千葉県のシステムでは相談員がマスキングの結果を確かめてから入力します。AIに任せる範囲と、人が判断する場面の分け方は、AIエージェントに任せる仕事、人が確認する仕事の分け方でも解説しています。
入力と利用のルールを先に決めている
LINEヤフーは、リスク管理やプロンプト技術に関するeラーニング研修の試験に合格することを、生成AIを使う条件にしています。デジタル庁の資料によると、「源内」は機密性2の情報まで扱える環境として提供されています。神戸市は、市民が個人情報を話す可能性があるため、条例に基づく市長の指定を受けてから導入しました。東急の検証でも、請求書などの機密情報は生成AIの学習対象にならない環境で扱っています。
効果を測り、課題も記録している
パナソニック コネクトは削減時間、利用回数、1回あたりの削減時間を前年と比べて公表し、住友商事は削減効果の算出方法を説明しています。デジタル庁は利用回数の分布から、よく使う職員とほとんど使わない職員に分かれていることを確かめ、職員全体の理解促進と、より実用的なツールの開発に取り組むとしています。社内での利用が一部の人に偏る理由と対策は、ChatGPTが社内で定着しない理由と、業務に組み込む進め方で整理しています。
事例の数値を読むときの注意点
発表に書かれた数値は、そのまま自社の効果の見込みには使えません。読むときは、少なくとも次の3点を確かめます。
- 実績か、試算・見込み・目標か:各社の発表のうち、パナソニック コネクトの78.8万時間は2025年度の実績、住友商事の削減効果はアンケートをもとにした算出です。東急の38%は試算、LINEヤフーの月間約1,600時間は見込み、パナソニック コネクトの総労働時間10%削減は2030年の目標です。
- 対象の範囲:三菱UFJ銀行の受付機能はフリーダイヤルの一部、ソフトバンクの自動化は暗証番号の照会業務と、全体の一部から始めた取り組みも多くあります。
- 発表の時点:生成AIのツールやモデルは短い期間で更新されます。発表で使われていたツールは、その時点のものとして読みます。
自社で効果を判断するには、対象業務の作業時間を導入の前後で測り、自社の数値で比べるのが確実です。
自社で生成AI活用を始める5つの手順
紹介した取り組みの進め方をもとに、自社で始めるときの手順を5つに整理しました。
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自社で生成AIの活用を始める5つの手順。1は業務を洗い出し、繰り返し発生して量が多く、誤りに社内で気づける業務を1つ選ぶ。2は入力してよい情報と、学習に使われない環境やルールを決める。3は参照させる規程やマニュアル、FAQを最新の版にそろえ、権限を確かめる。4は誰が出力を確認するか、AIが答えられない場合に誰へ引き継ぐかを決める。5は確認や修正の時間も含めて導入前後の時間を比べ、効果が出た業務から広げる。
1. 業務を洗い出して1つ選ぶ
最初の対象は、繰り返し発生して量が多く、出力の誤りに社内で気づける業務が向いています。議事録や報告書の要約、社内規程に関する問い合わせへの回答案などが候補です。業務の洗い出し方は、業務の棚卸しとは?で解説しています。
2. 入力してよい情報と使う環境を決める
対象業務で扱う情報を、入力してよいもの、加工すれば入力してよいもの、入力しないものに分けます。そのうえで、入力したデータが学習に使われない契約や設定の環境を選び、利用者が守るルールと研修をそろえます。
3. 参照させる資料をそろえる
社内の規程やマニュアル、FAQを参照させる場合は、資料が最新か、閲覧権限が分かれていないかを確かめてから登録します。神戸市の実証でも、対応するFAQがない問い合わせが見つかり、FAQを追加・改善しながら進めています。
4. 人が確認する場所と、答えられない場合の行き先を決める
出力を誰がどこまで確かめてから使うか、AIが答えられない場合は誰に引き継ぐかを決めます。社外に出る文書や、判断を伴う業務ほど、確認を厚くします。
5. 作業時間を測り、対象を広げる
導入前の作業時間を記録し、確認や修正の時間も含めて導入後と比べます。効果が確かめられた業務から、同じ作業をしている部署へ広げます。試行から本番の運用に移すときの確認項目は、AIのPoCを本番運用に移すには?で整理しています。
想定例:総務部門で社内規程の問い合わせ対応に使う場合
以下は説明のための架空の例です。総務部門に、経費精算や出張旅費の規程についての問い合わせが毎日届いているとします。
まず対象を「経費精算と出張旅費の規程に関する問い合わせ」に絞り、該当する規程とFAQを最新の版にそろえて、生成AIに参照させます。回答案は総務の担当者が確かめてから返し、規程に書かれていない内容はAIに答えさせず担当者が回答します。1か月の間、問い合わせ1件あたりの対応時間と、回答案を直した回数を記録し、導入前と比べて短くなっていれば、人事の規程にも対象を広げます。
社内で進めるか、外部の支援を使うか
対象業務の選定と入力のルールづくりは、業務を知る社内の担当者が進めるのが基本です。一方、総務省の令和7年度の調査では、導入の課題として「取り組むための人材がいない又は不足している」が上位に挙がっていました。社内で推進役を用意できない場合は、業務の整理や参照させる資料の準備、既存システムとの連携を、外部の支援と分担する方法もあります。
生成AIを単独のツールとして使う段階から、社内のシステムとつないで一連の作業を任せる段階に進む場合は、AIエージェントとは?も参考にしてください。inovieでは、対象業務の整理から、生成AIを組み込んだ業務の手順づくり、既存システムとの連携と運用の設計までを支援しています。支援の範囲はAI導入・システム開発の支援をご覧ください。自社のどの業務から生成AIを使い始めるかを決めたい場合は、お問い合わせからご相談ください。
出典確認日:2026-10-07
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