社内のナレッジ共有とは?進まない理由と、AIで探せる仕組みの作り方

社内のナレッジ共有とは、業務で得た知識や経験を、特定の人の頭の中や手元から、ほかの社員が探して使える形に移すことです。社内Wikiや共有フォルダを用意しても、書かれない、探せない、古くなるといった理由で、しばらくすると使われなくなることがあります。この記事では、ナレッジ共有の意味と形式知・暗黙知の違い、共有が進まない4つの理由と対策、使われる仕組みにするために決めておくこと、AIで変わることと人が続けること、始める手順を解説します。
社内のナレッジ共有とは:形式知と暗黙知
この記事でいうナレッジは、業務を進めるのに役立つ知識全般を指します。手順書に書かれた作業の流れだけでなく、よくある問い合わせへの答え、過去のトラブルとその対応、取引先ごとの約束ごと、判断に迷ったときの考え方も含みます。
ナレッジは、形式知と暗黙知の2つに分けて説明されることがよくあります。
- 形式知:文章、図、表、数値などで表せて、そのままほかの人に渡せる知識です。手順書、規程、よくある質問、議事録などが当たります。
- 暗黙知:経験から身につき、本人も言葉にしにくい知識です。「この取引先は電話のほうが話が早い」「この数字が出たら一度止めて確かめる」といった勘所が当たります。
ナレッジ共有の作業の多くは、暗黙知を聞き出して形式知にし、それを必要な人が必要なときに見つけられるようにすることです。暗黙知をすべて書き出すことはできません。それでも、判断の理由や過去の例を残しておけば、ほかの人が同じ場面で迷う時間は減ります。
手順書づくりや属人化の解消との違い
手順書は、1つの作業の進め方を順に書いた文書で、ナレッジの一部です。書き方は手順書の作り方とテンプレート、業務マニュアルとの違いと更新の方法で解説しています。属人化の解消は、特定の人にしかわからない業務をなくす取組で、属人化とは?起きる原因とリスク、業務の属人化を解消する手順で扱っています。
ナレッジ共有は、こうした文書や取組を含めて、社内の知識をふだんから残し、誰でも探せる状態を保つための決めごとと運用を指します。1回の整備で終わるものではなく、日々の質問や会議から少しずつ増やしていくものです。
ナレッジ共有が進まない4つの理由
ナレッジ共有の場所を用意しても使われなくなる理由は、多くの職場で似ています。
書く時間がない
知識を一番持っている人ほど忙しく、書く作業はその日の業務が終わった後に回されます。書くことが業務として認められず、時間も割り当てられていないと、最初の数件で止まります。
探しても見つからない
ファイルサーバー、チャット、メール、個人のメモと置き場所が分かれていると、どこを探せばよいかわかりません。題名の付け方が人によって違うと、検索した言葉と一致しません。同じ内容の文書が複数あり、どれが正しいのかわからないこともあります。一度探して見つからなかった人は、次から同僚に直接聞くようになり、共有の場所は開かれなくなります。
書いた内容が古くなる
制度、システムの画面、取引先の条件が変わっても、書いた内容は誰かが直さない限り古いままです。古い内容のとおりに作業してミスが起きると、共有の場所に書かれていること全体が信用されなくなります。
書いても評価されない
人事評価が個人の成果だけで決まると、ほかの人のために書く時間は評価につながりません。自分しか知らないことが、社内での立場を保つ理由になる場合もあります。書く人が報われない仕組みのままでは、呼びかけだけで共有は増えません。
4つの理由と、それぞれの対策を表にまとめました。
図の要点をテキストで読む
社内のナレッジ共有が進まない4つの理由と、起きること、対策をまとめた表。書く時間がないと、知識のある人ほど書かずに止まるため、会議やチャットの記録からAIで下書きを作り、担当者は確認だけにする。探しても見つからないと、同僚に直接聞くようになるため、置き場所を1つにし、題名を質問の形にそろえる。書いた内容が古くなると、ミスが起きて全体が信用されなくなるため、更新担当と見直しの時期を決め、更新日を表示する。書いても評価されないと、書く人が続かないため、書く・直す・答えることを評価と業務時間に含める。
使われる仕組みにするために決めておく4つのこと
ナレッジ共有のツールを選ぶ前に、次の4つを決めておきます。ツールは、決めたことを実行しやすいものを選びます。今使っているファイル共有やグループウェアで足りる場合も少なくありません。
置き場所を1つに決める
「このテーマのナレッジはここにある」と全員が言える状態にします。チャットでやり取りした回答のうち、ほかの人にも役立つものは置き場所に移すと決めておきます。チャットは新しい投稿で流れていき、後から探しにくいためです。同じ文書を複数の場所に置かないことも決めておきます。
書く単位とひな形を決める
1件のナレッジは、1つの質問や1つの場面に答える大きさにします。長い資料を丸ごと1件にすると、探した人が該当する箇所にたどり着けません。ひな形は、次のような項目で足ります。
- 題名:質問の形で書く(例「請求書の宛名を変えてほしいと言われたら?」)
- 答え:結論を先に書く
- 理由と判断の基準:なぜそうするのか、どこまでなら担当者が決めてよいか
- 例外と相談先:基準に当てはまらないときに誰に聞くか
- 根拠:規程や手順書へのリンク
- 更新日と更新担当
題名を質問の形にしておくと、困った人が検索に入れる言葉と一致しやすくなります。
更新の担当と見直しの時期を決める
ナレッジのまとまりごとに更新担当を1人決め、半年に1回など見直しの時期を決めます。更新日を必ず表示し、長く見直されていないものは一覧で見つけられるようにしておきます。更新のきっかけや履歴の残し方は手順書と同じ考え方で決められます。ナレッジの鮮度の考え方は、Q&A「ナレッジの鮮度(Freshness)は、どう管理すればよいですか?」でも整理しています。
探し方と聞き方を決める
分類(部署、業務、取引先など)とタグは、数を絞って決めます。あわせて、「まず置き場所を検索し、見つからなければ質問用のチャンネルで聞く。答えた人は、その回答を置き場所に追加する」という流れを決めておきます。質問を受けるたびにナレッジが1件増える形にすると、書くための時間を別にとらなくても、よく聞かれることから順にそろっていきます。
AIでナレッジ共有はどう変わるか
生成AIは、先に挙げた4つの理由のうち、主に「書く時間がない」と「探しても見つからない」の負担を減らします。一方で、AIが社内の文書を読めるようになると、権限の設定をこれまで以上に気にする必要が出てきます。
会議やチャットの記録から下書きを作る
ナレッジの多くは、会議や打ち合わせ、チャットでのやり取りの中で生まれます。会議の記録は、Web会議ツールのAI機能で作れるようになっています。Microsoft Teamsでは、Teams PremiumまたはMicrosoft Copilotのライセンスがあれば、AIによる会議の要約(インテリジェントな要約)を使えます。Microsoftのサポートページによると、この機能を使うには、少なくとも会議の文字起こしが必要です。Google Meetの「自動メモ生成」は、対象のGoogle WorkspaceエディションまたはGoogle AIプランで使え、日本語を含む8言語に対応しています。作られたメモは、会議の主催者のGoogleドライブにある「Google Meet」フォルダに保存されます。
チャットのやり取りも、スレッドを生成AIに渡して「質問」「答え」「理由」「例外」の形に整理させると、ひな形に沿った下書きになります。どのAIツールに社内の情報を渡してよいかは、事前に社内のルールで決めておきます。ルールづくりはChatGPTが社内で定着しない理由と、業務に組み込む進め方で解説しています。
ただし、AIが作るのはあくまで下書きです。Microsoftも、生成AIの回答が完全に正しいとは限らないため、ほかの人に送る前に利用者が内容を確かめるよう説明しています。会議の要約には、決まったことと検討中のことが混ざる場合もあります。下書きは、その業務の担当者が読んで直してから置き場所に登録します。
社内検索やRAGで、質問から探せるようにする
もう1つの変化は、探し方です。社内の文書を検索し、見つけた内容をもとに生成AIが回答する仕組みをRAG(検索拡張生成)と呼びます。RAGを使うと、題名やキーワードが一致しなくても、「出張の日当はいくら?」のような質問から関係する文書を探し、答えと根拠の文書を示せます。仕組みと作り方はRAG(検索拡張生成)とは?仕組みと作り方、精度を上げる方法で解説しています。社内Wikiとの使い分けは、Q&A「社内WikiとRAG(検索拡張生成)、使い分けはどう考えればよいですか?」も参考にしてください。
ただし、AIが答えられるのは、検索の対象にした文書に書かれている範囲までです。古い版や重複した文書が残っていれば、それをもとに答えることがあります。置き場所を1つにし、更新担当を決めておくことは、AIで探す場合にも欠かせません。
権限を引き継ぐ:見られない人に見せない
社内のナレッジには、人事、給与、取引条件など、一部の人しか見てはいけない情報も含まれます。Microsoft Copilot(旧称 Microsoft 365 Copilot)について、Microsoftは、利用者が少なくとも閲覧の権限を持つ組織のデータだけを表示すると説明しています。Google Workspaceでも、Gemini in Workspaceは、利用者が閲覧の権限を持つWorkspaceのコンテンツにだけアクセスすると説明されています。
つまり、こうしたAIは権限を広げませんが、もともと広く共有されすぎているファイルは、AIの回答を通じて見つかりやすくなります。Microsoftも、SharePointなどの権限の仕組みを使い、適切な人やグループだけが適切なコンテンツにアクセスできるようにしておくことが大切だとしています。AIに社内の文書を読ませる前に、「全員に共有」になっているフォルダや、退職者・異動者の権限が残っていないかを確かめます。自社でRAGを作る場合は、検索の段階で質問した人が閲覧できる文書だけに絞ります。実装の考え方は、Q&A「ロール別のアクセス制御(RBAC/ABAC)は、ナレッジ検索でどう実装しますか?」で解説しています。
AIを使っても人が続けること
AIで書く・探す負担が減っても、次のことは人が担い続けます。
- 何を正しい答えとするかを決める:判断の基準や例外の扱いは、業務の責任者が決めます。AIは、書かれた基準をもとに答えることはできても、基準そのものを決めることはできません。
- 下書きを確かめて確定する:AIが作った下書きの事実関係と、決まったことかどうかを担当者が確かめます。
- 古いナレッジを直し、消す:制度や条件が変わったら、更新担当が内容を直し、使わなくなったものは検索の対象から外します。
- 書かれていない知識を書き足す:AIが答えられなかった質問は、まだ誰も書いていない知識の候補です。答えを知っている人が書き足します。
- 書いた人、直した人を評価する:ナレッジを書く、直す、質問に答えることを、評価の項目や業務の時間に含めます。
AIに任せる範囲と人が確かめる範囲の分け方は、AIエージェントに任せる仕事、人が確認する仕事の分け方でも整理しています。
AIを使ったナレッジ共有の始め方
全社のナレッジを一度に整えようとすると、置き場所や書き方を決める前に作業量が増えて止まります。質問の多い業務を1つ選び、次の5つの手順で小さく始めます。
図の要点をテキストで読む
AIを使って社内のナレッジ共有を始める5つの手順。1は対象を1つ選ぶことで、同じ質問が多い業務から始める。2はひな形を作ることで、置き場所、項目、更新担当を決める。3はAIで下書きを作ることで、問い合わせの記録や議事録、チャットのやり取りから質問と答えの形にする。4は担当者が確かめて公開することで、内容と閲覧の権限を確かめてから検索につなぐ。5は質問の記録で見直すことで、答えられなかった質問を書き足し、古い内容を直す。最後に、判断の基準を決めること、下書きの確定、古い内容の修正は人が担うことを示している。
- 対象を1つ選ぶ:総務への社内からの問い合わせや、受注まわりの確認のように、同じ質問が繰り返し来る業務を選びます。
- 置き場所とひな形を決める:置き場所、1件の大きさ、ひな形の項目、更新担当を決めます。
- 既存の資料と記録から下書きを作る:手順書、過去の問い合わせ、会議の記録、チャットのやり取りから、AIで質問と答えの形の下書きを作ります。
- 担当者が確かめて公開し、検索につなぐ:担当者が内容を確かめてから公開します。AIの検索につなぐ前に、閲覧の権限が適切かを確かめます。
- 質問の記録で見直す:答えられなかった質問、AIの誤った答え、見直しの時期が来たナレッジを定期的に確かめ、書き足したり直したりします。
1つの業務でうまく回ったら、同じ置き場所とひな形を使って、次の業務に広げます。
想定例:総務への社内問い合わせからナレッジ共有を始める場合
以下は説明のための架空の例です。社員60名ほどの会社で、総務の担当者2人に、経費精算、備品、社内の手続きについての質問がチャットや口頭で毎日届いているとします。答えはベテランの担当者が知っていますが、書かれたものはほとんどありません。
総務の担当者は、まず置き場所を社内のファイル共有の1つのフォルダに決め、「質問」「答え」「理由と基準」「例外と相談先」「根拠」「更新日」のひな形を作りました。次に、過去3か月分のチャットのやり取りを、社内で利用が認められているAIツールに渡し、よくある質問の下書きを30件ほど作りました。下書きはベテランの担当者が読み、規程と違う答えや、すでに変わった手続きを直してから公開します。
公開した後は、社内から質問が来たら、まず置き場所のリンクを返し、載っていない質問は答えたうえで1件追加することにしました。社内検索のAIにつなぐのは、フォルダの共有範囲を確かめ、人事関係の文書を別の場所に分けてからにしています。見直しは3か月ごとに2人で行います。
ナレッジ共有の仕組みづくりを相談する場合
ナレッジ共有は、ツールを入れるだけでは進みません。置き場所、書き方、更新の担当、権限を決め、AIで書く・探す負担を減らしながら、人が確かめて直し続ける運用が必要です。inovieでは、社内の文書の整理から、社内検索AIやRAGの試作と評価、権限の設計、運用の決めごとまでを支援しています。支援の範囲はAI導入・システム開発の支援をご覧ください。
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社内のナレッジ共有や社内検索AIの導入についてのご相談は、お問い合わせから受け付けています。
出典確認日:2026-10-06
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